Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2017/02/20

映画『レッド・ダスト』をDVDで観る

ひっさしぶりに映画を観た。DVDをPCで。それも何年も前に買ってあったDVDだ。そして、いわく因縁つき──というのは古いPCのドライヴに入れたところ取り出せなくなって、そのままDVDはマシンともども、昨年永遠の眠りについて、結局、新しく買い直したディスクをやっと観たのだった。いや、これが予想以上に面白かった。

南アフリカの真実和解委員会の話である。ジリアン・スロボ原作の小説を映画化したものだけれど、制作の途中でスロボは手を引いてしまったという話だけは耳にしていたので、これまたいわく因縁つきの映画だ。
 ジリアンの父はジョー・スロボ、母がルース・ファースト、いずれも70年代から「超」がつくほど有名な白人の反アパルトヘイト活動家だった。ジョー・スロボは南アフリカ解放後のマンデラ政権で1994-95年の短期間、大臣を務めたりしたが、ルース・ファーストは国外に出てモザンビークで活動していた80年代に、アパルトヘイト政権のセキュリティ・ポリスが送りつけた手紙爆弾で殺されたのだ。その実行犯が真実和解委員会で恩赦によって罪を問われなかったという経験をもとに、娘のジリアン・スロボは小説を書いた。それがこの映画の原作になった『レッド・ダスト』だ。
 
 映画は監督がイギリス人のトム・ホッパー。主演がチウェテル・イジョフォーとヒラリー・スワンク。ロケが東ケープ州のヒラーフ・ライネットで行われている。グレート・カルーの赤土の風景や、当時のANCの解放歌などが、90年代の雰囲気をそのまま伝えているように思える。

 当時の真実和解委員会の詳細については、もちろん、ジャーナリスとであり詩人でもあるアンキー・クロッホの『カントリー・オブ・マイ・スカル』の右に出るものはないけれど、映画はまたそれとはちがうものを圧縮したかたちで伝える手段だから、これはこれで面白かった。それにしても原作の小説は2000年、映画は2004年に出ているのだから、ずいぶんと時間が過ぎてしまったものだ。いや、時間が過ぎたために、かえって感情ぬきで記憶をパンフォーカスして理解できるところがある。それもまた面白い事実かも。


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2.22付記:facebook でつぶやいたことをこちらにも備忘録のために──

南アフリカのアパルトヘイト政権下で、反体制派だというだけで逮捕され、拷問されて死んだ10代の若者をめぐる「真実和解委員会」のやりとり。そのやりとりをめぐって、当時の警察官とその上司がどんなことをしていたかがあきらかになっていく。田舎町で起きた事件、すさまじい拷問だ。アフリカーナ抵抗運動という白人極右派のふる旗がナチの卍の変形模様であることも思い出した。米南部でつい先日もふられていた旗にそっくりな。。。。
昨日この映画を観ながら、これは過去のことではなく、あるいは、これからの日本(戦前の日本も)、これからのアメリカ(これまでも、南部で起きたリンチ)など、もっぱら「これから」の世界が直面する(見えない状態のまま?)ことではないかと背筋が凍る思いに何度か襲われた。
アパルトヘイトと拷問が、世界中を取り巻く時代がやってくるのだろうか」