Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2016/12/31

アディーチェに明けてアディーチェに暮れる

2016年を振り返ってみると。

 いちばん大きな出来事はやっぱりチママンダ・ンゴズィ・アディーチェの『アメリカーナ』(河出書房新社)が出たことだった。
 1月末に1500枚をこえる訳をあげてから、10月下旬に本のかたちになるまで、いやあ、いろいろあったなあ。とにかく長いテクストを訳しおえるために昨年から走りに走って、ようやくしあげた途端、ばったり。ちょっとバテてお休みモードの春がすぎ、初夏になってゲラ読みが始まって、編集者の交代があって秋になり、ついに本になった。

 そうこうするうちに、パリではクリスチャン・ディオールの Tシャツの胸にWe Should All Be Feminists というアディーチェのTedTalk 2012 のタイトルがあらわれて、日本でもついに、これが本になることが決まって……来年春には……またまた走る!

 『アメリカーナ』はとてもお洒落な衣装を着せてもらいました。イラストも装丁もとてもすてき。インタビューが雑誌に掲載されたり。恵まれました。
2016.10 プラハで

 しかし。6月に「くぼたのぞみ」として、詩集以外で、初めての単著『鏡のなかのボードレール』(共和国)が出たことを忘れてはいませんか、と自分を叱る声が聞こえる。そうでした!これは大きな出来事でした。書評もたくさん出ました。嬉しい!「ボードレールからクッツェーまで、黒い女たちの影とともにたどった旅」として、下北沢のB&Bでイベントもやったのでした。ぱくきょんみさん、清岡智比古さん、どうもありがとう。

 お名前はいちいちあげませんが、お世話になった編集者のみなさん、装丁家の方々、そして書評を書いてくださった方々、ありがとうございました。Muchas gracias! 来年もまた何冊か、アディーチェとクッツェーで本が船出する予定です。ご期待ください。
 
 日本社会はどんどん生きずらくなっていく気配だけれど、世界のありようも危うくなっていく気配だけれど、あちこちで戦争が絶えないし、これまで住んでいたところを有無をいわさず追われて難民が多出するし、天然資源をめぐって強欲な資本が跋扈し、理不尽なことばかり起きているけれど、でもその難民を受け入れようとする人たちがいて、理不尽なことには「ノー」という人がいて、絶望的な状況のなかでも「行動すること」で希望が生み出されていく。ジョナサン・リアのいう「ラディカル・ホープ」が。


「世界は絶えず驚きを放出しつづける。われわれは学びつづけるのだ」──J・M・クッツェー『ヒア・アンド・ナウ』。

みなさん、どうぞよいお年を!