Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2016/10/12

チママンダ・アディーチェ『アメリカーナ』がついに!

ブログの欄外右上に、早々と写真をアップしてきましたが、ついに、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの『アメリカーナ』(河出書房新社刊)が発売されます。

 アディーチェの魅力はなんといっても、ストーリーテラーとしての抜群の才能です。かなり分厚い本ですが、ぐんぐん読ませます。訳しながら、加速されるスピードに机から離れられなくなり、ついにダウン、ということが幾度かありました(笑😆汗)。

 話はプリンストン大学でのフェローを修了したイフェメルが、髪を結いに隣町まででかける場面で始まります。西アフリカ出身の女性たちが経営する場末の小さなヘアサロンにたどりつくまで、そして髪を結う場面でも、タピストリーのような物語の面白さを予感させるエピソードがたっぷりと描き込まれていて、これからどんな物語が展開されるのか、期待がふくらむことでしょう。

 ピリ辛のブログにのせる素材を鋭い視線でさがす主人公イフェメル。彼女の髪はアディーチェとおなじような縮毛、キンキーヘアです。その豊かな髪は母親ゆずり。その思い出から場面は一気に、ナイジェリアで過ごした少女時代へ戻っていきます。そこで出会った運命の人、オビンゼ。でも、大学に進学するころから、二人は、運命のいたずらに翻弄されることになって……。

 西アフリカはナイジェリア、新大陸アメリカ、旧大陸イギリス、大西洋をまんなかにしてかつての歴史を逆戻りするような人の往来をベースに、現代の生活がありありと描かれます。より良き生活をもとめて人々が移動し、不運に見舞われて逆戻りし、あるいは本来の自分にもどるために帰郷する。さまざまな人間模様のなかに、いくつもの恋があり、親子の葛藤があり、移民として生きる苦労があり、政治や経済の出来事に翻弄されながら生きる人たちの姿が立ちあがってきます。

 アメリカですごす学生生活や、そこで出会ったリッチな白人の恋人や、インテリのアフリカンアメリカンのボーイフレンドとの関係などから、外部からは見えにくい、人種をめぐるアメリカ社会の細部が、アフリカ人ならではの微妙な視線によって、奥行きをもって浮上するのがこの本の特徴です。それが評価されたのか、出版された年に全米批評家協会賞を受賞しました。物語を駆動させる力は、なんといっても、熱い「ラブストーリー」です。

「弁解の余地のないオールドファッションなラブストーリーを書きたかった」──アディーチェ自身がガーディアン紙にそう語っていました。コメディタッチのメロドラマ、さわやかなスパークリングワインの味。

 さあ、軽やかに味わいながら、物語の深い森に分け入って、思う存分さまよっていただきましょう! 予約受付中です。