Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2016/05/12

『鏡のなかのボードレール』とフロート・コンスタンシア

Groot Constatia の入口
 さわやかな5月の夕暮れ。来月刊行予定の、翻訳付きのエッセイ『鏡のなかのボードレール』(共和国刊)の念校に、みっちり赤を入れて返送した。(編集者さん、すみません!)
 いつもなら、ほとんどふらふらになって、電話でピックアップを頼むところ、今日は風もなく、まぶしい光のなかを、散歩がてら、ゲラを入れた大きな封筒を抱えて郵便局まで行った。斜めに差し込む日差しが思いのほか強く、家に帰ってから、脱力してワイン三昧!

右奥がテイスティング・ルーム
 2011年11月に、クッツェーの自伝的三部作のリサーチに訪れたケープタウンで、亡霊のようにボードレールの一篇の詩が脳裏に浮かびあがった。その詩に出てくる「コンスタンシアのワイン」とは、ここのワインだったのかと驚いたワイナリー、それが「Groot Constantia/フロート・コンスタンシア」だった。

ホワイエの壁にかかった絵
拙著『鏡のなかのボードレール』は、『悪の華』からいくつかの詩篇を訳出しながら、話は時空を超えてあっちへ飛び、こっちへ飛び、テーマも19世紀象徴派詩人ボードレールの作品が日本語へ翻訳された歴史や、日本の詩人たちのボードレール詩の受容などを経て、最後はふたたびクッツェー作品に出てくるケープタウンへと戻っていく。

 キーパーソンはボードレールの「ミューズ」だったジャンヌ・デュヴァル、カリブ海生まれといわれる肌の黒い女性だ。
 小ぶりながら、掌にすっぽりおさまる pomegranate みたいな、握りしめると grenade のような本になるといいな!