Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2015/08/03

パウル・クレーと夏日記(5)

小学生のころ、夏休みに書かされた絵日記というのは、案外めんどうな宿題だった。毎日こつこつと書くというのが、どうも苦手で、数日まとめて書く、あとから思い出して書く、というのがどうしても何箇所か入ってくる。北海道の夏休みは内地とちがって、7月末から8月のなかばまでで、約25日。冬休みもおなじように25日。だから25日分の絵日記にまず日付だけを入れてしまう。それからが厄介だ。

 ほかの宿題はたいがいまとめて2日か3日でやっつけてしまった。それも7月中に。だから残りの時間は絵日記だけつければいい。いわば自由時間たっぷりの日々であるはずだったが、これが忘れてしまう。あの日、なにをしたんだっけ、というのが思い出せなくて困った。困りついでにお話をつくってしまうこともままあったなあ。それがそもそもの始まりだったのだろうか。



 さて今日のクレーは、暗闇である。暗闇のなかに真っ赤な三日月と黄色い満月が両方浮かんでいる。満月のなかになにやら動物が浮かんでいるような……。この色合いは大好きな組み合わせだ。赤い水差し、青い容器のはしっこ、黄色い樹木にオレンジのような実がなって。背景の黒がすてき。この黒が深い。記憶の深さを彷彿とさせる。