Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2014/08/30

雨の池袋で──「これでわかるクッツェーの世界」報告


 イベントが開かれた28日は、8月とは思えないほどひんやりとして、小雨もぱらつくようなお天気でした。暑熱の雑踏を避けて、郊外暮らしを決め込んでいる者には、ひさしぶりの人の波。屋外はひんやりしていても、建物のなかに入ると妙に蒸し暑かったり、冷房が効きすぎて寒かったり、体調調整の難しい季節です。

 J・M・クッツェーについて、こんなイベントが開かれたのは恐らく、わたしの知るかぎり、大学以外では初めてではなかったかと思います。それだけでも、なんだかどきどきしました。
 
『サマータイム、青年時代、少年時代──辺境からの三つの〈自伝〉』(インスクリプト刊)刊行記念イベントは、池袋ジュンク堂の4階カフェで予定通り7時半から始まりました。田尻芳樹さん、都甲幸治さん、というベストメンバーを迎えて、翻訳者のくぼたのぞみがこれまでの経緯などを語り、それぞれのクッツェー作品との出会いや、さまざまな角度からクッツェーの作品を読み込んだ話の展開になっていきました。思わぬエピソードも飛び出し、くだけた調子で笑いも入り、専門的な突っ込みもあり、となかなか得難い会になったと思います。
 なにしろこの三部作は、ジョン・クッツェーという人間のできあがっていく過程を素材にして、作家になった J・M・クッツェーがその作家生成のプロセスをフィクションとして書くという希有な試みです。
 クッツェーの他の作品に向かって全方位的に触手が伸びていく、そんな芽をいくつも内包するこの自伝的三部作の翻訳出版によって、これからのクッツェーの読み方が大きく変わっていくことを確かに予感できる充実した会になりました。

 雨の中、とても大勢の方に来ていただきました。遠くは関西からわざわざいらしてくださった方までいて・・・感激です。質疑応答では、質問がどれもクッツェー作品をしっかり読み込んでくださっていることがわかる濃い内容のものでした。

 二次会もとても盛り上がって、終電の関係でわたしは途中退席しましたが、参加者どうしの会話がはずんで、まだまだ話は尽きないようでした。

 ご来場くださった方々、ほんとうにありがとうございました。

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PS: facebook に昨日書き込んだレポートに加筆して、記録としてこちらにも残しておきます。2日後のいまも、当日の密度の濃い時間の余韻がまだ抜けません(笑)。