Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2013/05/12

『Life & Times of Michael K』の脱落部分


いまも出回っているペーパーバック版の Life & Times of Michael K には、どうやらまだ脱落が残っているらしい。少なくとも、2006年のとき発見され、当時は著者である J.M.クッツェーさえ知らなかった脱落だ。第二章の最後近く、Vingate版もPenguin版も、次の部分が脱落していた。

 The state rides on the backs of earth-grubbers like Michaels; it devours the products of their toil and shits on them in return.  But when the state stamped Michaels with a number and gobbled him down it was wasting its time.  For Michaels has passed through the bowels of the state undigested; he has emerged from its camps as intact as he emerged from its schools and orphanages.

 Secker & Warburg のハードカバー版なら221ページの上部に存在する上の文章が、ペーパーバックには脱落しているのだ。手元にあるペーパーバック(Vingate, Viking Penguin,1985)ではp161のまんなかあたり。Wherasで始まるパラグラフの直前、本来なら上記の文章が入るのだが、それがない。
 なぜ、このような脱落が起きるか、クッツェー自身からの手紙によれば、ペーパーバックまで著者にゲラが送られてくることはないから、だそうだ。

 英文でじかに読む読者のみなさん、せっかく読むのだから、著者が書いた通りの「正しい」原文でぜひ読んでほしい。

ちなみに拙訳の、ちくま文庫の『マイケル・K』では件の部分をこんなふうに訳した。

「国家はマイケルズのような土を掘り返す者たちの背中に乗っているんだ。国家は彼らがあくせく働いて生産したものを貪り食い、そのお返しに彼らの背中に糞を垂れる。だが、国家がマイケルズに番号スタンプを押して丸飲みにしても、時間の無駄だ。マイケルズは国家の腹のなかを未消化のまま通過してしまった。学校や孤児院から出たときとおなじように、キャンプからも無傷で抜け出してしまったのだから」