Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2012/11/14

ゾーイ・ウィカム『デイヴィッドの物語』── 完成!

今日、『デイヴィッドの物語』のみほんができました。この瞬間がなんといっても嬉しい。感無量!

 著者のゾーイ・ウィカムさんはもちろん、力のこもった「あとがき」を書いたドロシー・ドライヴァーさんはじめ、グリクワ民族の専門家である海野るみさんには大変、大変お世話になった。また、大詰めの作業ではアフリカのさまざまな民族をめぐって、なにかと注文の多い訳者の希望を入れてくださった装丁家の桂川潤さん、アフリカの布についていつも、さすがプロと思わせるすばらしい速さで調査をしてくれる「梅田洋品店」の梅田昌恵さん、ほかにも、支援してくださった何人もの方々に心からお礼をもうしあげたい。そして、

 解放闘争の内幕をゴシック/ミステリータッチで描く、圧倒的なナラティヴ・ヒストリー

というキャッチコピーを、要求の多い訳者の意見を入れて、苦心してひねり出してくれた編集の西浩孝さん、本当にご苦労様でした。

 思えば、2007年12月に二度目の来日をしたジョン・クッツェー氏とパートナーのドロシー・ドライヴァーさんとの会話から、この翻訳の企画はスタートした。紆余曲折を経て、企画が決まってからすでに4年。その間、ケープタウンまで旅もした。この作品に出てくる地名を地域別にソートして、まことに効率よく案内してくれたケープタウン在住のガイド、福島康真さんのプロ精神には感服した。

 みなさん、ようやく本になりました。南アフリカの解放闘争の裏でどのようなことがあったか。現在、混迷を深める南アフリカの政治、経済状況は、どのようなことに端を発して現在へいたっているか、その答えのひとつがこの作品のなかに、確実に埋め込まれている。それは紛れもない事実だと思う。
 しかし、翻訳を決心した理由はもちろんそれだけではない。クッツェー氏の文学作品としての破格の讃辞。ドロシーさんとのワイン片手の腹蔵ない会話。そして、なによりこの作品自体のもつ優れたパワーと、テクストとしての先駆性と、それを書いたゾーイ・ウィカムという作家の同時代性に、東アジアに住むひとりの人間として深い共感を覚えたことが、一筋縄ではいかないこの本の翻訳にわたしを向かわせたのだと思う。
 クッツェー氏からも「翻訳が終わったのを聞いて嬉しい。この本の翻訳は生易しい作業ではなかったはずです」とメールをいただいたのは大きな慰労だった。

 みなさん、ぜひ手に取って、読んでみてください!

 ちなみに表紙では、本書内にも登場するストレリチアという南部アフリカ原産の花が、なにやら謎めいた不思議な印象をかもし出しています。
 この本からこぼれ落ちるさまざまな逸話を、これから何回かに分けて「裏話」として書いていきますので、乞うご期待!

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2012.11.22付記:みほんが出来てから数えること○日(これが訳者にはとっても待ちどうしい!)Amazon やほかのネットショップでも昨日から24時間以内発送になりました!