Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2012/06/08

アパルトヘイト時代に逆行する南アフリカの情報保護法──さすがのクッツェーも反対を明言!

昨年11月22日火曜日、ケープタウンに滞在していたとき、アパルトヘイト時代へ逆行するような情報保護法が国会を通過したというニュースを聞いた。その日はブラック・チューズデイと呼ばれている。
その日わたしは朝からタウンシップに出かけ、午後はテーブルマウンテンにのぼり、国会前でデモが行われているのを見逃してしまった。曜日を勘違いしていたこともあったけれど・・・ 

南アフリカ国内だけでなく、アフリカ全土に大きな影響をおよぼす可能性のあるその法案には、南アフリカ国民だけでなく、多くの南ア出身者が反対意見を述べつづけていることは以前から伝わっていたが、先日、ガーディアンがナディン・ゴーディマや J・M・クッツェーから取材した発言を掲載したので、ここに訳出する。

ゴーディマ:「この法案が出てきた理由は明らかです──政府は、法律の意図が腐敗を隠蔽しようとすることだという真実を隠そうともしない・・・わたしはアパルトヘイト体制時代に書いて、アパルトヘイト体制とたたかいました。三冊の著書が発禁になりました。いま私たちがやっていることは、新たな装いの下でアパルトヘイト時代の検閲制度にもどることです」

クッツェー:「この法律の意図は見え透いています、とことん調査しようとする厄介なジャーナリストを活動困難にするためであり、さらに一般的には、無能な、腐敗した官僚制度が窮地に陥ることがないよう助けるためです・・・法律の主唱者たちを大胆にしているのは、どうやら2001年以来、西欧世界のいたるところで起きている動きのようです。国家による、さらに疑わしい行動のまわりに防護壁を立て、その壁を破ることは犯罪にしようとする動きです」

アパルトヘイトからの解放運動をたたかった現在の南アフリカ与党 ANC内に、政権取得以前からすでに武器売買をめぐる汚職や腐敗、あるいは人権蹂躙を行っていることは多くの人たちが指摘してきたことだ。まさに「権力は腐敗する」を絵に描いたような構図だ。
秋に訳が出るゾーイ・ウィカムの『デイヴィッドの物語』は、そんな解放運動の内部事情を彷彿とさせる作品でもある。

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付記:クッツェーとゴーディマは長いあいだ、なにかというと比較されてきた2人の南ア出身のノーベル賞作家だった。こうして見ると、あらためてその違いがわかる。ゴーディマがアパルトヘイトと南アフリカという国についてみずからの経験を交えて批判するのに対し、クッツェーは現在、世界中で起きている(政治、経済などの)動きをふまえた、国家の行動として南アフリカ政府の動きを批判している。
このスタンスの違いはそっくりそのまま、作品を書くスタンスの違いにも投影されてきたといえる。

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さらに付記:6.11──いちばん上の写真はケープタウンのガヴァメント・アヴェニューにある国会。アパルトヘイト末期を舞台とした『鉄の時代』で、主人公ミセス・カレンが「恥の館」と呼んで、火の点いた車ごと突入しようと考えた建物だ。