Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2011/01/01

今年もウィカムとアディーチェ

あけましておめでとうございます。

今年もまたゾーイ・ウィカムの『デイヴィッドの物語』です。主人公はクッツェーの『Disgrace/恥辱』に登場する人物とおなじ名前のデイヴィッド、舞台が南アフリカのケープタウンと東ケープ州であることもおなじですが、こちらは「カラード」と呼ばれた人たちのなかでも先住民族「グリクワ」にオリジンを持つ人たちの話です。(「ホッテントット・ヴィーナス」としてヨーロッパ人の見せ物にされたサラ・バートマンの話も、彼女の遺体を解剖して標本にした医師キュヴィエの話も皮肉たっぷりに登場します。)

 グリクアの人たちが、北ケープのナマクワランドから民族大移動をして東ケープへ移るところは、ボーア人のグレイトトレックを思わせますが、主人公が反アパルトヘイト闘争で ANC 軍事部門で活躍したフリーダムファイターであるところが、1991年当時の南アの状況と微妙な絡みを見せます。カラードの女性たちが置かれていた状況もありありと浮かんで、小説ならではの、内部の声が伝わってきます。

 J. M. クッツェーが「何年ものあいだ、アパルトヘイト後の南アフリカ文学はどのようなものになるだろうかと、私たちはずっと待っていた。いま、ゾーイ・ウィカムがその逸品を届けてくれた。ウィットに富んだ語調、洗練された技法、多層的に織り込まれた言語、そして政治的にはだれの恩恵も受けていない『デイヴィッドの物語』は、途方もない達成であり、南アフリカの小説を創り直す大きな一歩でもある」と高く評価した作品を、もうすぐ日本語でお届けできるのは嬉しい。
 
 さらに今年は、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの日本オリジナル短編集第二弾も進行中です。
 2009年に英語版で出た短編集『The Thing Around Your Neck』から未邦訳の6編と、雑誌 Granta や NewYorker に掲載された作品などを集めてお届けします。最新作も入ります!

 お楽しみに!!

ねずみは眠る、猫も寝る、ゆたんぽ抱えて夢をみる2011年、今年もどうぞよろしく!