Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2010/11/27

つらら食い──北海道、石狩の「皿の上の雲」

今月の「月刊百科」に載っている中村和恵の「世界食堂随聞記」は傑作! つらら、を食う話です。

 ああ、つらら! 食いました、わたしも。石狩ではなく、空知のつらら、でしたけど。

 緑色のトタンの三角屋根から軒に吊り下がった、でっかい、でっかい、つららをじゅうのうで、いやスコップでだったか、カチンカチン割って落として、そのうちの、ちょっと細くて透明な、可愛いつららをぽきりと折り取り、紐で両肩からつるしたミトンをはめた手でしっかりつかみ、粉をまぶしたような雪を丁寧にぬぐって、おもむろに口に入れる。痛い! とんがった先がほっぺたの裏を突く。ガリガリ。うん、うまい。ファンタスティックな、不思議な味だ。

 ちなみに、北海道では手袋は「はめる」ではなくて「はく」といいました。いまもいうかな? 東京に出てきてもうずいぶんになりますが、この口調はいまでもつい出てしまい、よく家人に笑われます。

 つららばかりか、雪も食いました。まっさらな粉雪、気温が零点下もぐんと下がると、ふわふら落ちてくる雪が結晶そのものになって、目に見えるのです。視界は、白さの欠片もない東京に長くなって、いまさらながらに考えると、もうファンタジーそのもの。ああ、そうか、わたしは子ども時代、別に幻想小説なんか読まなくても、幻想に包まれる暮らしをしていたのかもしれない。
 
 そんな子どものころの記憶を、エッセイスト、中村和恵は見事にすくい取って、目の前にならべてくれます。北国が好きな人、雪や氷が好きな人、必読です!