Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2009/06/02

500マイル by Peter, Paul & Mary と Dusklands

ある人のブログでたまたま見つけて、何気なくのぞいてみた YOUTUBE で、いきなり胸を突かれました。
 60年代が舞台の小説を訳しているからではないのですが、この歌は、さまざまな感情を思い出させて、うまく文節化できません。さまざまな感情が断片となった記憶といっしょに襲ってきて、ことばにならないのです。
 でも、PP&Mのこのヴァージョンは、ほかのものと違って、いま見ても、いま聴いても、心打たれます。


Five Hundred Miles by PP&M
(Hedy West)


If you miss the train I'm on, you will know that I am gone
You can hear the whistle blow a hundred miles,
Hundred miles, a hundred miles, a hundred miles, a hundred miles,
You can hear the whistle blow a hundred miles.

Lord I'm one, lord I'm two, lord I'm three, lord I'm four,
Lord I'm five hundred miles from my home.
Five hundred miles, five hundred miles, five hundred miles, five hundred miles
Lord I'm five hundred miles from my home.

Not a shirt on my back, not a penny to my name
Lord I can't go a-home this a-way
This a-way, this a-way, this a-way, this a-way,
Lord I can't go a-home this a-way.

If you miss the train I'm on, you will know that I am gone
You can hear the whistle blow a hundred miles.


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ヴェトナム戦争まっさかりの60年代 USAから発信された曲を(ジョーン・バエズの「DONNA DONNA」とか)、北海道の片田舎で聴いていたこと。東京に出てきてからも、ヴェトナム戦争は烈しさを増し、立川の米軍基地へと中央線を走って行く黒いタンク車を目にしながら、反戦デモの末尾にぼそぼそとくっついて行ったころのこと。さまざまなことを思い出しますが、いまあらためて考えるのは、1974年にJ.M.クッツェーが第一作目として出した「ダスクランズ/Dusklands」のことです(原タイトルの最後の複数の「s」に注目してください)。

 第一部が「The Vietnam Project」、そして第二部が「The Narrative of Jacobus Coetzee」。前者がヴェトナム戦争時の米国を舞台にした物語、後者がアパルトヘイト体制へいたる南アフリカの植民の歴史を根源まで遡る物語、その両者を「黄昏の国々」という意味のひとつの作品におさめ、細部をたがいに響き合わせる小説として発表したクッツェー。彼はこの作品で「作家」になりました。この作品から歩き出した、といってもいいでしょう。

 クッツェーは1968〜71年という時期をバッファローのニューヨーク州立大学ですごし、大学内の反戦集会*に参加して逮捕され(学内にいただけで全員逮捕、ということが当時よくありました。私が通っていた東京の大学でもありました。)、彼の場合は外国人ですからヴィザがおりなくなってしまった。その当時のことを「my political patrons dropped me like a hot potato」(DP-p338)と後に語っています。「ホットポテトを落っことすようにして、彼の厄介事を見捨てた」という意味でしょうか。

 あれからほぼ40年の時がすぎました。

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注記:2013.11.1──*「反戦集会」というと、ヴェトナム戦争に反対する集会と思ってしまいますが、後にカンネメイヤーが書いた詳細によると、これは大学内に警察が常駐することに対して教職員が反対し、学長に対して抗議する集会だったようで、その場にいあわせた参加者全員が逮捕された、ということのようです。