Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2007/11/14

ラッキー・デューベ、ナディン・ゴーディマ

南アフリカのカリスマ的レゲエ歌手、ラッキー・デューベが死んだ。
 享年、43歳。現地時間の10月18日午後8時すぎ、ヨハネスブルグで。車で子どもたち2人を親類の家まで送っていったところを、カージャック犯に撃たれたのだ。突然の銃撃と伝えられる。
 3年後のサッカーのワールドカップ開催をひかえて、南アの治安の悪さが話題になっている矢先、国民的英雄であるデューベが殺されたとあって、南ア警察は犯人逮捕にむけて、精鋭の捜査員からなる特別捜査班を組織。犯行から3日後、5人の容疑者がスピード逮捕された。
 そのうち4人(2人はモザンビークの出身*)が起訴されて23日、ヨハネスブルグの法廷に姿を見せた。だが裁判は手続き上の問題から1週後に延期され、30日には捜査不十分でさらに1カ月延期された。
 この半月にわたって南アのメディアは、不出世のミュージシャンを惜しむ記事や、大勢のファンがつめかけた追悼集会の模様などを連日伝えている。

年に2万人が殺人によって命を落とすといわれる南アで、暴力犯罪の対象となるのは有名無名を問わない。昨年はノーベル賞作家、ナディン・ゴーディマも自宅で強盗にあった。当時82歳のゴーディマが、ためらうことなく現金と車のキーを渡すと、若い犯人たちは66歳の家政婦と彼女を物置に閉じ込めた。
 無事に救出されたゴーディマは「1人が腕で私を押さえ込んだ。腕は筋骨たくましくて滑らか。そのとき思ったわ。この腕をもっとまともなことに使う場はないものかって」と語る。「南アフリカは暴力犯罪をめぐる深刻な問題を抱えている。でも、解決は警察だけの問題じゃない。犯罪の背後にあるものを見なければ。機会を奪われ、貧困のなかから出られない若者たちがいる。彼らには教育と職業訓練と雇用の場が必要なの。犯罪を減らす方法はそれしかない」とも。
 強盗に押し入られた恐怖よりも、この国が抱える貧富の差と、職のない大勢の若者のことに心を砕く、ゴーディマらしいことばだ。

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付記:11月13日付、北海道新聞夕刊に掲載されたコラムです。

 *カージャック犯の容疑者として逮捕された4人のうちの2人が、モザンビークから「富める」南アへ流入した人たちだったことが印象的です。これは、アパルトヘイト体制下の南ア政府が周辺国に対して、「不安定化工作」を行ったことと無関係ではなさそうです。当時白人政権は、アパルトヘイト体制維持のために、周辺国の反政府勢力になりふりかまわず武器や資金をあたえて政情不安をあおり、その国が安定した国力を得ないように画策しました。その結果、政治的に混乱し、経済的に疲弊した国の代表例が、モザンビークやアンゴラだったのです。
 ゴーディマは、強盗事件によって世界の耳目が自分だけに集まることに、とても戸惑ったと伝えられています。