Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2010/07/23

サンタフェで語る J.M.クッツェー

連日すごい猛暑です。この暑さ、まだまだ続きそうですが、 J.M.クッツェーの動画についてお知らせします。
 
 新しいといっても、画像がネット上でオープンになったのが最近ということで、録画されたのは2001年11月8日、場所はニューメキシコ州のサンタフェにあるレンシック・シアターです。会の主催者は、LANNAN FOUNDATION。(アクセスして登録すれば、Podcast でも聴けますし、画像を見ることもできます。)

 まずクッツェーは『Youth』から朗読します。これは2001年5月にはすでに書き上げられていたものの、出版がペンディングになっていた作品で(出版は翌年5月)、1997年に出た『Boyhood少年時代』の続編にあたります。その『少年時代』をどのジャンルに分類するか出版社が訊いてきたエピソードもまじえて、『Youth』からかなり長い朗読(約43分)をします。

 それに続いて、南アフリカ出身のハーヴァード大教授、ピーター・サックスとの会話があります。サックスのいくつかの質問に答えるクッツェー、これが約30分。なかなか面白い内容です。
 ロンドンですごした青年時代、詩人になりたかったが60年代にそれを諦めたこと、『Dusklands/ダスクランズ』を出して作家として出発した1974年までの、10年ほどのまわり道の時期について。詩は10代のころはエズラ・パウンドにぞっこんだったこと、そのあとはリルケを読んだこと。
 60年代初めに英国博物館で南アフリカへ旅をした者の記録を読み、土地所有について考えたこと、30歳が作家として出発するためのデッドラインだと思っていたこと、などなど。

 ノーベル賞を受賞する2年ほど前の、地味なチャコールグレーのスーツ姿のクッツェー。時期を考えると、南アフリカからオーストラリアへ移る直前でしょうか。
 
 面白かったのは、『少年時代』のなかで少年ジョンがふとバッハの音楽を耳にしてクラシックについて目覚める場面をサックスがとりあげ、文学作品の構成などに絡めて質問するところ。クッツェーはバッハとベートーヴェンの違いにたとえて語ります。
 ベートーヴェンのイメージは一点をにらんでいる天才で、音楽があふれんばかりに出てきてそのことに自分でうっとりしてしまう人だが、バッハはキーボードを前にした生徒(クッツェー)の隣に座る先生のようで、さあ、こういうふうにやってみようか、といって演奏してくれる人だというのです。そんなふうに即興演奏をするたびに、バッハは謎めいた瞬間を残し、彼のやり方を真似る者を置いてきぼりにする、これはいってみればロマン派の天才音楽家のカウンターパワーにあたる。自分としては、バッハとキーボードに向かっている、と考えるのが好きだと答えます。

 いまさらながら、ではありますが、これは作家の仕事とは "To imagine the unimaginable" とするクッツェーの作品を考えるうえで、なるほど、と腑に落ちることばでした。

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2019.1.20──短い動画しか出てこなくなったので、をクッツェーとサックスの会話部分をここに埋め込みます。(2020.11.15)